大阪地方裁判所 昭和26年(行)28号 判決
原告 小川静恵 外四名
被告 布施市長
一、主 文
原告らの請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
二、事 実
原告ら訴訟代理人は「被告が昭和二十五年五月二十九日亡小川貫一の滞納処分として差押えたる電話加入権大阪中央電話局東電話局所属東二、八〇〇番の売却処分はこれを取消す。」との判決を求め、その請求の原因として被告は昭和二十五年五月二十九日亡小川貫一に公課の滞納があるとして其の所有にかゝる前記電話加入権につき差押えをなし、公売通知及公示の後昭和二十六年二月六日右電話加入権を入札の方法で公売に附し同月十三日落札買受人を大石富太郎とし金額四万円を以て売却決定をした。しかし乍ら右貫一は既に昭和二十五年八月二十七日死亡し、右加入権は当時相続人たる原告らの所有となつていたのであるから、死亡者に対しなされた公売通知又は公示は無効であり、売却決定も亦違法の処分である。一般に強制執行に於て債務者が死亡するときは、更に承継の手続を必要とするのが原則であつて、債務者の遺産に対して執行を続行し得るのは民事訴訟法第五百五十二条の特別規定があるからであつて国税徴収法、地方税法にはかくの如き特別規定がないばかりでなく、地方税法に相続開始の場合は相続人より之を徴収する旨規定があり、又限定相続を為した相続人は相続財産の価額を限度として納付の義務を有するとの規定があることによつても死亡者に対して滞納処分の続行をなすことは許されず、国税徴収法第四条の二及旧地方税法第五条に基き先ず相続人をして被相続人の滞納税金を納付せしめる機会を与えなければいけないのであつて、相続が開始された場合相続人に対し何らの通知も公示も無くして被相続人名義を以て滞納処分の続行を許すならば、相続人は全く不知の間に相続財産を処分されることとなり、相続人自ら税金を納付する機会さえ失うに至るのであるから原告らに対し公売の通知又は公示をなすべきは、本件公売処分をなすについて法律上必要な要件である。しかるに事こゝに出でずして、死亡者名義を以て原告らが営業上不可欠のものとする電話の加入権を闇打的に公売するが如きは決して軽徴なる瑕疵として看過することが出来ない。仍て原告らは昭和二十六年三月三十一日右公売処分に対し大阪府知事に訴願をなしたところ、同年八月七日棄却の裁決がなされ、同裁決書は同月十六日附を以て送附されて来た。と述べた。
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の事実はすべて之を認める。原告らは、本件公売処分が死亡者に対してなされた違法且無効のものであると主張するが、凡そ相続人は被相続人の死亡の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を当然且つ包括的に承継するものであるから、本件に於て原告らが被相続人小川貫一の有せし本件電話加入権と共に、同人の負担せる五万百六十円の府市民税納付の義務をも承継するは論を俟たないところであつて、被告が相続の事実を知らないで本件電話加入権を原告ら先代の所有として公売処分に付したからと云つて、これは手続上の軽微な瑕疵に過ぎず、公売に依る落札そのものの効力を左右し得るものではない。又差押財産の公売を滞納者に通知し又は公示することは公売処分をなすについての法律上の要件ではないから、死亡者に対して発せられた公売通知だからと言つて該通知は何ら公売自体の効力に影響を及ぼすものではない。又民事訴訟法第五百五十二条は当然の理を規定したものであり、国税徴収法地方税法に於て特にこの理が排除さるべき根拠はない。国税徴収法第四条の一及び地方税法第十六条に於ては相続人の限定承認の場合納税義務の確定した税の繰上徴収すら許しているのであつて、徴税はその本質上納税義務の確定された以上速かに徴収されるのが本則であり、本件は単に公売処分が被相続人の死亡後になされたに過ぎないもので、徴税の対象たる電話加入権は差押当時より特定されており、相続によつて滞納処分をやり直す必要はない。而して本件は限定相続の場合であり、原告らは相続の開始があつたことを知つた時から三ケ月内に財産目録を調製して家庭裁判所に届出しなければならず、又民法第九百二十七条の公告並に同条二項により知れたる債権者に各別に申出ることにもなつているが、これについて原告らは何ら被告に対し申出はなく、又本件公売処分は被相続人の死亡後五ケ月有余も経過してなされたものであるから原告らは進んで被相続人の債務を弁済しようとするならば充分これを為し得た筈であると答弁した。
三、理 由
原告ら主張の日に、被告が、小川貫一の滞納公課に対する滞納処分として、同人所有の本件電話加入権を差押え、その後原告ら主張の日に右貫一が死亡し、更にその後に於て、被告が右貫一宛に右差押物件を公売する旨の通知又は公示をなし、昭和二十六年二月六日公売に附し、同月十三日原告ら主張の如き売却決定をなした事は当事者間に争いがない。
そこで原告らは、右死亡者たる小川貫一に対しなされた公売の通知又は公示が無効であるから畢竟公売処分そのものも無効であると云うが、凡そ租税滞納処分として、公売を行うに当つては、国税徴収法施行規則第十九条所定の公告をなすを以て足り、滞納者に通知をなすを要しないから、前記公売の通知については、その効力の如何等を論ずる迄もなく、公売処分そのものの効力に対し、何らのかゝわりもないものである。
次にもし原告ら主張の右公示なるものが、前記施行規則所定の公告に意味しているものとしても、該公告は公売を穏密裡にではなく広く多数の者に衆知させて之が参加をまち、適正公平に且つ成るべく高価な額を以て差押財産を売却せんがための手続であり、従つてそれは対世間的なものであつて滞納者を相手方とするものではない。而して右施行規則によつて滞納者の住所氏名が公告事項となつており、それが本件の場合死亡者たる小川貫一の名を以て表示されたとしても、元来右貫一が滞納者であり、且つ差押物件の所有者であつた事は争いがないから、被告としては専ら差押当時の小川貫一を相手をして租税徴収上の強制処分を続行してゆけばよいのであつて、該財産の権利者に変動なきや等を常に顧慮し乍ら手続を進めてゆかねばならぬ必要は毫もなく、たとえその間相続が開始するも相続人は相続の抛棄等特段の事情なき限り、被相続人の財産上の地位を包括的に承継し、言わば租税債務を負担した差押附きの財産を相続すると見られるのであるから、被告としては従前通り強制徴収手続を続行して何らの妨げもないのである。そして本件公告の場合、差押着手当時と同一人である死亡者を表示して相続人を表示していなくとも、その真意は要するに租税の滞納者にして差押財産の所有者たるものを表示せんとしていること疑いなく、もし相続の事実を知るならば、当然相続人を表示すべきこと明白であつて、それは社会通念に従つて外部から客観的にも認識出来る被告の単純な意思決定上の誤謬にすぎず、かくの如き誤謬は、客観的に其の真意と認められるところに従つて効力を発生すると見るべく、この点の誤謬をとらえて公告の効力を云々するが如きは許されないと解する。
次に公売処分における売却決定なるものは、公売執行者が入札者の入札書を開封の上落札適格者を調査して該適格あるものを落札者と決定する行政処分であると解せられるので、同処分は滞納者を名宛人とする行政処分ではなく、又本件の如く滞納者として被相続人たる死亡者を表示するも、その単純な誤謬たることは前述の通りである。よつて右売却決定は死亡者を滞納者として表示したけれども、その一事を以てしては未だ之を違法であると云うことは出来ないのであつて、この点に関する原告らの主張は之亦理由なきものと言わねばならない。
而して本件は租税実体法上の問題でなく、租税手続法上の問題が争いとなつているのであるから、原告ら主張の無効乃至違法原因がいずれも認められない以上、その他の点に於ては争なき限り、凡ての公売処分手続は適法に行われたものと事実上推定されるから、本件原告の請求は之を容れるに由なく失当であるから之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項但書を適用した上主文の通り判決する。
(裁判官 乾久治 中村三郎 安井章)